福祉の道を目指すようになった、一つのきっかけ

2023.05.16(火)

ひふみ

Writer:hifumi

 私が福祉の道を目指すようになった、一つのきっかけとなる出会いについてです。
大学時代の春の長期休暇中の特に予定の無かった、とある一日の朝方、私は家の近所のコンビニで雑誌を買って、家に帰ろうとしていました。
 その帰り道に突然、「すみませんが、道をたずねたいのですが」と声をかけられました。
声の主は、とても大きなリュックサックを背負った60代後半くらいのおじいさんでした。
そのおじいさんは、私が住んでいる市の隣にある市まで行きたいと言われました。
「隣の市ですと、ここからちょっと北に行くと駅があるので、早い電車で、10分くらいで、行けますよ。」と私が伝えると、おじいさんは「いえ、電車じゃなくて、歩いてそこまで行きたいのです。」と答えられたので、私はびっくりしてしまいました。
 隣の市までは、距離は大体17キロくらいあり、歩くと、三時間半くらいかかる距離でしたが、私はその日は時間があったので、「それは、とても面白そうですね。私に道を案内させてください。」とおじいさんに言いました。ここからおじいさんと私の三時間半、約17キロの歩き旅が始まりました。
 おじいさんにどちらから来られたのかをたずねてみると、驚愕だったのですが、東京から山口県の端っこの下関までの歩きの旅の最中だったそうです。背中の大きな大きなリュックの中には東京から下関までの道が詳細に印刷された地図が何枚にも渡り、入っているそうです。そのおじいさんは、いろいろな所を歩くことが、好きで、今までも、出来るだけお金をかけないで、ヨーロッパの各国を回ったり、ヒマラヤ山脈に山登りもされたことがあるそうです。旅には危険がつきもので、外国ではタクシーの運転手等からいろいろな詐欺の被害にあったりもしたそうですが、「成功した話よりも失敗した時の話の方が面白いでしょう?」と笑いながら、本当にたくさんの旅のお話を聞かせていただきました。
 今回の東京から下関までの旅の目的は体力づくりだそうで、死ぬまでにピラミッドで有名なエジプトの広い広い大地を歩くことが、その時のおじいさんの目標だったそうです。
 何故そんなに歩くのか?と、私がたずねると、「老後をむかえて、何もせずに自宅の縁側で死んでいくのは嫌だから、ただどこでもいいから道の上で死にたい。」とおっしゃっていました。「だけど、女房と旅行に行った時は、気の毒なので、こんなに歩かないよ、沢山有名な場所に観光に行くよ。」と笑いながら答えてくれました。
 話をしながら歩くと長い距離でもあっという間に時間が経ち、目的地に到着しました。
別れの時、とても珍しい出会いだと私は感じたので、おじいさんに年賀状を書きたいと思ったので、住所を教えていただきました。住所を書いて年賀状を送ると、その次の年の正月に関東からおじいさんから、お返事の手紙が返ってきました。その手紙には、旅の途中で一緒に歩いてくれた人は珍しかったので、とても楽しかったことや、おじいさんは、あの後、無事に下関までたどり着かれ、続いて鹿児島、そして、北海道、四国一周とあの一年で、日本中をたくさん歩かれたということが書かれていました。さらにその一年後の正月にはおじいさんからエジプトで撮られたスフィンクスの写真が裏面に印刷された年賀状が届きました。
夢を叶えられたのだなぁと私は大きく感動してしまいました。
 人生いつまでも夢や目標を抱くということが、大きな生きる力になっていくのだなと感じさせられます。少しでも長く自分の力で歩き続けていたい、いくつになっても夢や目標を持ち続けていたい。そのお手伝いを福祉の仕事でさせていただくことが、自分の初心であったことを思い出させてくれるそんな素敵な出会いでした。